トーインの測定と調整について
© 2008 旧車王国 禁無断転載 


●トーインの測定について

車検の検査ラインでは必ずサイドスリップが測定される。
サイドスリップはタイヤが横滑りする値を言うが、サイドスリップ量の過大の原因の多くはトーインの狂いである。
「トーtoe」とは「つま先」、あるいは「先端」などの意味であるが、トーとは言葉の通り、車の先端、つまり前輪の間隔を言う。
この間隔が前すぼみ、つまり車の真上から見てハの字になっていればトーイン(toe in)であり、その反対をトーアウト(toe out)と
言う。
トーがわずかにインの状態だと直進性が増すので、昔はわずかなトーインが正常という車が多かった。
最近はラジアルタイヤが当たり前になり、昔に比較するとトーインの数値が低くなっているし、トーインがゼロの車もが多い。
車によってはトーアウトが正常というものもある。前輪駆動車で駆動力が掛かったときにタイヤが回転する力でサスペシションが
僅かにたわみ、その状態でサイドスリップがゼロになるような設計の車がある。そのような車では静止状態で測定すると
トーアウトのこともある。
トーインを測定するには、左右の前輪のタイヤの前の間隔ととタイヤの後ろの間隔を調べればよい。
正しい日本語では「トー」を測定するというべきだが、一般的にには「トーイン測定」とか「トーインを調整する」といわれている。
簡単に測定するには助手をひとりみつけ、前輪のタイヤの前と後ろで右前輪と左前輪の間隔をメジャーで測定し、差がどれだけ
あるか調べればよい。
この差をトーインあるいはトーアウトという。トーアウトの場合をトーインがマイナスであると表示することもある。
差が無ければトーインがゼロである。

しかしながらこの方法ではトーインを正確に調べるのが困難な場合が多い。というのも最近の車はエンジンルームにぎっしりと
機器が詰まっており、しかも車高も低いので、タイヤの直前と直後にメジャーを当てて左右の前輪の間隔を測定することが
困難なことが多い。
時計でいうと、9時の位置と4時の位置で測定できれば良いほうで、下手をすると8時の位置と5時の位置で測定することになる。
ほとんどの場合トーインゼロに調整すればよいので、筆者はレーザー式の水準器を使って測定をしている。
ホームセンターで2000円程度でレーザー付きの水準器を売っている。
これは水準器の平面と平行にレーザー光が発光されるもので、これを目安にトーインを測定する。
事前の準備として、水準器に少し加工が必要である。というのは、多くの場合、水準器の長さがホイールの直径より小さいから、
水準器の平面をアルミのアングルなどで延長し、ホイールの直径に当たるように加工しておく。
画像の水準器はアルミのアングルで14〜15インチのホイールのリムに当たるように細工したものである。
水準器の平面から2センチの位置にレーザー光が水準器の平面と平行に照射されるようになっている。


この水準器をホーイルのリムに当てレーザー光を照射して前輪の前方数メートルの位置で車幅より長い棒(または板)を車体の方向と
直角に置き、そこにレーザー光の当たる位置をマークする。
次にその棒(板)を動かないようにしておき、反対側のホイールのリムに水準器を当て、同様にレーザー光の当たる位置にマークを
つける。
今度は車の後ろ、前輪から数メートルの位置にその棒(板)を持って行き、車体の方向と直角に置いて、同様にレーザー光を
照射して車の前で測定したときと後ろで測定したときの違いを見る。
前輪から棒または板までの距離は同じにした方が良い。距離は長いほど精度が上がる。
この方法で測定を繰り返すことで完璧にトーインをゼロに調整できる。
トーインを数値化したい場合は前輪から棒までの距離と前後の測定値の違いから簡単に計算できる。
トーイン=タイヤの直径×前後の測定値の違い÷前輪と棒の距離×2
メジャーで測定してトーインがゼロになったと思っていたが、実際にレーザー光水準器による方法で測定すると結構狂っていることが
判明したので、このレーザー光水準器は測定感度が高く有用だと思う。

他に素人ができる方法としては基準として車体の周囲に糸を張り、そこからのズレを測定する糸張り法なども紹介されているが面倒に
違いないし、糸を張った状態で車の下から調整をするのは困難である。
なお、オークションなどで数千円でアルミ金具にメジャーを固定したものが販売されているが、画像を見る限り車軸の
センター(リム面)ではなく、タイヤの面で測定しているようで誤差が多いと思われる。
4万円ほど出すとレーザーを使ったトーインの測定器もあるが高価に過ぎる。
2万円弱では英国製だと思うが、Trakriteというサイドスリップテスターがある。これはトーインではなくサイドスリップを
直接測定できるので有用かも知れない。
これと同じアイデアだが、滑りやすい床面に濡れた新聞紙を敷いてその上に前輪を通過させ新聞紙の破れ具合からサイドスリップを
調べるという手もあるらしいが試したことは無い。
Trakriteと同じアイデアで、プラスチックの板で左右に動くような仕掛けを作って試したことがあったが、強度不足だったのか
板が十分横に滑ってくれなかった。あるいは載せた車のトーインがゼロだったのかも知れない。

なお、ジャッキアップした状態ではサスペンションが伸びきった状態になるためにトーインは狂った状態になるので、サスペンションに
荷重が掛かった状態、つまり、平らな地面に4輪が着地した状態で測定しないと意味が無い。

●トーインの調整方法について

調整は、タイロッドの端で行う。タイロッドは、ラック&ピニオンのラックからハブのナックルアームまでを結ぶロッド(棒)で
あるが、そのナックアームとつながる部分にボールジョイントがあり、ボールジョイントの根元の固定ナットを緩め、タイロッドを
回転させることでトーインを調整する。

ロックナットが硬く締まっていることが多いので、緩めるときにボールジョイントに負担を掛けないように、ボールジョイントにも
レンチまたはスパナを掛けておき、二つのスパナ(レンチ)を捻るようにして緩める。
ボールジョイントの首のところにスパナをかける平らな部分がある。
タイロッドは真ん中にスパナが掛けやすいように断面が四角または六角などになっているのでそこにスパナをかけてタイロッドを
回転させれば良いが、ステアリングラックブーツの端がタイロッドに金具で固定されていることが多く、そのままタイロッドを回すと
ラックブーツがねじれて破損する恐れがあるので、事前にラックプーツの端を固定する金具を緩めておくこと。
トーを広げるとき、つまりトーアウトにしたい場合は締め込みたいと思う間隔まで固定ナットを緩め、その間隔が無くなるまで
タイロッドを締めればよい。またトーインにしたいときは固定ナットとボールジョイントの根元との間隔を見ながら緩めたらよい。
しかしながら、ナックルアームは車軸のセンターに近いところにあるので、少しの調整がタイヤの面で大きな変化として反映される。
つまりレバー比が違うためであり、タイロッドで調整した距離の数倍がトレッドの変化に現れると思ってよい。
調整が済んだらロックナットを締め、再度トーインを確認する。

ジャッキアップした状態ではトーイン測定の意味が無いと記載したが、ジャッキアップ無しで前述の調整ができるのか。
タイヤをいっぱい片側に切ればタイロッドの調整ができる場合もあるが、まずジャッキアップ無しに調整をすることは困難である。
ディーラーなどでは、ピットがあるので、ピットの中から荷重状態でトーインを調整することができる。
車体の下に入らずに調整することは非常に難しい。
測定をしてからジャッキアップして調整を行い、ジャッキを下げて測定するなどとやっていると手間が掛かって仕方ない。
ではどうするか。答えはひとつ、水平な場所でフロントタイヤをスロープに乗せ、リアを上げて車体が水平な状態になるような
状態にしてリアをリジッドラックで支える。
この状態で車の下から調整を行い、測定と調整を繰り返す。
最後に少し走って、サスペンションとステアリングのリンクを馴染ませ、測定して正しい値になっているかを確認する。

片方のタイロッドだけで調整を終えると、ステアリングのセンターが狂ってくるので左右のタイロッドで同じだけ調整するのが正しい
やりかたである。
荒っぽい方法では片側のタイロッドで調整し、ステアリングのセンターが狂った部分はステアリングをシャフトから引き抜いて
セレーション(ギザギザ)をひとつかふたつズラして調整する手もある。この方法でも実際上大きな問題は発生しないが、厳密に
いうとステアリングを右にいっぱい切ったときと左にいっぱい切ったときの切れ角が違ってくる。つまり最小回転距離が左右
違うことになる。

なお、このトーインの測定と調整は実測的なものであるが、車検場の測定はサイドスリップテスターといい、左右別の鉄板が
敷いてあり、ここをタイヤが通過するときに鉄板が横にどれだけ引っ張られたか、つまりサイドスリップを調べている。
トーインの数値ではなく、走行時にどれだけ横向きの力が作用しているかといういことを調べているものでこれをサイドスリップ
またはトータルトーという。
トータルトーというのはいろいろな要素を全部込みにしてタイヤの直進方向以外の力(つまり横向きの力)が作用しているか
どうかを調べているものである。

トーインをゼロに調整すれば多くの場合、サイドスリップ(トータルトー)は規定内に収まるが、もし、トーインがゼロでも
サイドスリップが大きく狂っている場合は、他の要素が大きく狂っているということになる。
車輪にはタイヤの前後の開きの違い、つまりトーインの他に、キャンバーつまりタイヤが外側に倒れているか内側に倒れているか、
そしてキャスターつまりキングピンの角度という三つの要素(アライメント)がある。キャスターは自転車の前輪が斜めに前に
出ているのと同じで直進性を保つ要素であるが、これは競技用車両を除いて調整可能な自動車は無いといって良い。
これらの複雑な要素があるので、数値的にトーインをゼロにしたからといってテスターで調べたときにサイドスリップが
必ずしもゼロになるとはいえない。
しかしながらトータルトーがゼロだからといってアライメントが正しいとはいえない。極端なキャンバーの狂いも極端なトーイン
(あるいはトーアウト)で打ち消しになっているかも知れないからである。
昔の車は直進性と回転性をバランスさせるために、ポジティブキャンバーとトーインがついていた。つまりタイヤはわずかに外側に
倒れ、前から見ると逆ハの字で、上から見るとわずかにハの字になっていた。
つまり、ポジティブキャンバーにより外に向かうタイヤを、トーインによって内側に向けようと補正して、サイドスリップ
(トータルトー)ではゼロに近くなるようにしていたのである。
原則は全く変わっていないが、最近はネガティブキャンバーの車も多く、サスペンションの数値(アライメント)は単純ではない。

トーインが強い場合またはキャンバーがポジティブの場合タイヤの外側が磨耗する傾向がある。キャンバーがネガティブまたは
トーアウトのときにはタイヤの内側が磨耗する傾向がある。
トーインは直進安定性に関係してくるので競技用車両ではいろいろな値に調整される。
一般の車ではタイヤの磨耗と転がり抵抗の面からすると、サイドスリップ(トータルトー)をゼロにすれば良い。
トーインの狂いは燃費にも大きく影響するので狂いがないように調整をしておくことは重要である。


●コメントなどはこちらへメールでお寄せ下さい。
スパムメール防止のために全角文字でメールアドレスを記載してありますので、半角で入力しなおしてくださるようお願いします。

トップページへ戻る