タイミングベルトの交換・ウォーターポンプ・テンショナーなど


タイミングベルト(特殊ゴム製の歯付ベルト) はベルトメーカーによると20万キロの耐久性があるというが、自動車メーカーによると約10万キロ毎の交換が推奨されている。タイミングベルトそのものは、かなりの耐久性があるが、タイミング・ベルトが破損する原因の多くは、ウォーターポンプやテンショナープーリーのベアリングの劣化によって固着し、その結果ベルトの歯が欠けたり、背面が擦れることに起因する。
ベルトが切れたり歯欠けにより空転するとピストンとバルブのタイミングが狂い、ピストンとバイブが衝突し、エンジンそのものが破損する。
イタリアの某車のように2万キロとか車検毎の交換が要求される車もあるが、おそらくそれらの車種はタイミングベルト・プーリーの幅が狭いなどで、結果的にベルトに与える負荷が大きくなるためにベルトの寿命が短いのだと思われる。それらのエンジンはエンジンの基本設計そのものに問題があるためにベルトが破損するのであって、本質的にはベルトの責任ではないと思われる。
一般的にはタイミングベルトのみならず、テンショナープーリーとウォーターポンプは定期的に点検し、予防的に交換することが必要である。車によっては、ウォーターポンプを駆動しているのがタイミングベルトでなく、ドライブベルト(オルタネーターベルト)である車種もあり、その場合はウォーターポンプは、タイミングベルトと同時交換でなくても良いが、ウォーターポンプの固着でベルトが破損することがあるので注意が必要なことには変りはない。

マーチ・スーパーターボの場合、ウォーターポンプはタイミングベルトとエンジンブロックの間にあるので、タイミングベルト交換時にはウォーターポンプも交換するべきである。特に冷却水の管理が悪い車両はウォーターボンプのシールの潤滑不良により、ポンプが固着しやすい。冷却水(クーラント)には冷却性能のみならず、防錆性能と、ウォーターポンプのシールの潤滑性能が求められるので良質のクーラントを使用するべきである。
マーチ・スーパーターボのタイミングベルトは年式によって異なっている。カムシャフトの駆動プーリーの歯の形状が88年12月から変更になっているので、互換性は全くない。ウォーターポンプアッセンブリーもベルトの歯の形状の変更とともに変更されているので注意。部品番号は88年12月までが21010-01B28または21010-01B29で価格は5500円。88年12月以降は21010-24B25または21010-19B25で価格は6500円。


タイミングベルトの交換作業


*車の前部をジャッキアップして、リジッドラックでボディーを支える。
*右前輪を外し、アンダーカバーを取り外す。
*エアコンのコンプレッサーを駆動するベルトのテンションプーリーの軸を固定しているナットを緩め、テンション調整ボルトを回して張りを緩めてポリ・ベルトを外す。このときにベルトの回転方向にマークをつけておく。同様にスーパーチャージャーを駆動しているベルトも回転方向をマークしてから取り外す。
*点火プラグを外す。(点火プラグを外さなくてもタイミングベルトの交換ができないことはないが、外した方がベルトの当たりを出すのが容易)
*クランクのセンターにある19ミリのボルトにレンチをかけてクランクを回し、クランクプーリーの切り欠きをタイミングベルトのカバーにある上死点のマークに合わせる。
*オイルパンにあて板をしてジャッキで支える。
*エンジンの右側のエンジンマウントを外す。エンジンマウントはエンジンブロックに3本の12ミリのボルトで固定されている。狭い部分でラチェットもスパナも入らないので、L型のレンチを使うと良い。
*3本のボルトのうち前の2本を完全に取り外し、あとの1本は緩めるだけでよい。
タイミングベルトのカバーを固定しているボルトを外す。タイミングベルトのカバーはアッパーとロワーに分かれているが、アッパーのカバーを固定している5本の10ミリのボルトを外すと、アッパーのカバーが外れる。5本のボルトのうち後ろのボルト1本はヘックスボルトであり、ヘックスレンチを使用して取り外すが、通常のL型のヘックスレンチでは緩めるのに多少苦労する。
アッパーカバーは下部をやや外側に1センチほどズラしてから上に持ち上げて取り外す。
*この状態でカムシャフトプーリーが見えるので、カムシャフト・プーリーの合いマーク(画像の白矢印の先の○)がエンジンのヘッドの合いマークと一致しているか確認する。


*クランクプーリーを固定している19ミリのボルトを緩める。インパクトレンチが無いと緩めるのは困難。レンチの端をボディに引っ掛けておき、点火ケーブルを抜いてエンジンが掛からないような状態にしてからセルモーターを一瞬回して緩める方法もあるが、この方法は素人には推奨できない。
ボルトが緩めばプーラーがなくても簡単にプーリーが外れてくる。
*タイミングベルトのロアーカバーは4本の10ミリのボルトで固定されているが上の2本はタイミングベルトのアッパーカバーと共締めなので、下のボルト2本を緩めればカバーが外れる。
*この状態でタイミングベルトの損傷を観察し、タイミングベルトのカバー内にベルトのクズなどがないかも観察する。
タイミングベルトを駆動しているクランクの駆動プーリーと、カムシャフトプーリーにはそれぞれ○印があるので、その位置でベルトにマークをつける。このときにベルトにマークするだけでなく、それぞれのプーリーのエンジン側にもマークをつけておく。
マークするにはラッカーか事務用の修正液を使うと良い。
*テンションスプリングの長い方の端をピンから取り外してテンションを緩め、テンションプーリーを固定しているナットを緩め、テンションプーリーを取り外す。テンショナーの異常の有無も観察しておく。
*この状態でタイミング・ベルトを取り外すことが出来る。無理をしないで横にズラしてベルトを取り外す。
タイミングベルトを取り外すとき、また、取り外したあとは、カムシャフトとクランクを決して回してはいけない。
取り外したベルトの両面を観察し、異常がないかを調べておく。


*古いタイミングベルトと新しいベルトを重ねて同じ位置にマークをつける。
*冷却水を抜き、ウォーター・ポンプを固定しているボルト5本を取り外す。
ウォーターポンプの端をプラスチック・ハンマーで軽く叩いてウォーターポンプを取り外す。多くの場合ポンプが固着してエンジンブロックに張り付いているので注意が必要。


ウォーターポンプも異常がないか観察し回転させて、劣化の状態を見ておく。
*ウォーターポンプが取り付けられていたブロック側のガスケットを取り、清掃する。カッターナイフの背などで削ぎ落とす。
狭い場所なのでガスケットを綺麗に取るのが困難だが、丁寧に作業し、場合によってはオイルストーンか、目の細かい耐水ペーパーに当て木をして擦る。
新しいガスケットとともにウォーターポンプを装着する。締め付けは対角線上を交互に締める。


*新しいテンションプーリーを取り付け、左に寄せておいて、センターナットを軽く締める。
この状態でテンションスプリングの短い端をテンションプーリーから出ている脚(画像の赤矢印)に引っ掛け、スプリングの長い端をフックピンに引っ掛ける。マーチの場合、テンションスプリングの設計が拙いのか、テンションスプリングの短い端がテンションプーリーの脚(画像の赤矢印)にひっかからないことがある。これはテンションスプリングの軸を中心にスプリングの端が円運動するのに対して、テンションプーリーも固定用の真ん中の楕円に沿って逆の向きに円運動するので、テンションプーリーを左端に寄せたり、右端に寄せると、リーチが不足してスプリングが引っかからなくなる。
整備マニュアルでは 前述のようにテンションプーリーを左に寄せておいて、センターナットを軽く締め、テンションスプリングのテンションをかけることになっているが、スプリングが引っかから無い場合は、スプリングをかけないままテンションプーリーを左端に寄せ、軽くナットで固定し、タイミングベルトの装着に進む。
*タイミングベルトをテンションプーリーにかけてから、ベルトにつけたマークを目印にカムシャフトプーリーにかけ、左手でその状態に押さえつけながら、右手で下からベルトを引っ張り、ベルトがウォーターポンプのプーリーに掛かっていることを確認してから、マークに合わせてクランクの駆動プーリーに嵌める。
最初からベルトをカムシャフトプーリーに全部掛けるのではなく、ベルトの幅2/3くらいが掛かるようにしておくと嵌めやすい。
ベルトは押し込むと無理なく入るはずである。
もし、手で押して入らない場合は、クランクシャフトまたはカムシャフトが微かに回っていることがある。ベルトにマークした印を目印にクランクシャフトをほんのわずか(外周で0.3〜0.5ミリ)回して調整する。駆動プーリーにドライバーを当ててわずかにコジれば良いが、決して1/2歯以上動かしてはならない。
*ベルトをプーリーの真ん中に来るように押し込む。その後テンションプーリーを固定しているナットを緩める。テンションスプリングがまだ装着されていない場合は、テンションプーリーをベルトに押し付けながら、テンションスプリングを装着する。このようにすれば、テンションスプリングがテンションプーリーから出ている脚(画像の赤矢印)に引っかかる。


*この状態で、クランクシャフトを時計周りに数回回し、ベルトの当たりを出す。画像は新しいベルトを装着したあとに当たりを出すためにクランクシャフトを回した状態なので、タイミングマーク(青い矢印)の相互関係がズレている。
*ベルトがプーリーの正しい位置にあることを確認してからテンションプーリーを固定しているナットを締め付ける。
車種によっては、テンションプーリーにスプリングが内蔵されていて常時スプリングで張力を与えているものがあるが、マーチの場合、テンションスプリングはタイミングベルト装着時にプリロード(初期張力)をかけるだけの作用しかなく、最初の組み付け時の張力のままとなる。
*冷却水を注入する。水漏れがないか確認してからタイミングベルトカバーを取り付ける。
*クランクのタイミングベルト駆動プーリーとクランクプーリー(ドライブベルトを駆動するプーリー)の間にスペーサーがあるので、忘れないように装着し、クランクプーリーを取り付けて固定ボルトを規定トルクで締め付ける。
スーパーチャージャーベルトと、エアコンのベルトを点検し、取り外したときの回転方向を合わせて装着する。
*テンション調整ネジでスーパーチャージャーベルトと、エアコンのベルトの張力を調整し、それぞれのテンション・プーリーの固定ナットを締める。
*アンダーカバーを装着。
*点火プラグを装着。
*ボルトナット類に余りがないか確認。
*各部の締め付けと、冷却水などミスがないことを確認してからエンジンを始動させる。
*異音がないことと、冷却水の漏れがないことを確認。
*タイミングベルトのカバーに交換時期と走行距離を記載したラベルを貼付する。
今回取り外したベルトを観察したが、異常はなく、このままで20万キロは走行できると思われた。
テンショナーは異音は発生していないし、滑らかに回転することを確認したが、わずかにガタが発生しており、ベアリングがわずかに磨耗していることが窺えた。テンショナーの寿命はおそらくあと5万キロ程度と思われた。
取り外したウォーターポンプは全く異常がなかったが、約10万キロの走行であることと、作業の手間を考え、新品のポンプに交換した。

他の車種のタイミングベルトについても同様の手順で交換できるが、いくつかの違いがある場合がある。
クランクプーリーは、センターにある19ミリや21ミリのボルトで固定されているものがあり、機種によってはプーラーをかけないと外れないものがある。また、10ミリ程度のボルト4本でプーリーが固定されているものがあるが、これは簡単に取り外しが出来るので作業が容易である。
タイミングベルトには回転方向が決まっているものがあり、ベルトにマークされているものがあるし、最初から取り付け用の合いマークが印されたものもある。
ツインカム(DOHC)の場合はカムシャフトを駆動するカムプーリーが2個あるのでそれらのタイミングが狂わぬように組み付ける必要がある。特にツインカムの水平対向エンジンを搭載しているスバルなどは長いベルトで両側のツインカムを駆動しているのでうまくベルトを装着する必要があり、手が4本か5本必要になるので補助者を見つけて作業しないと困難である。プーリーにベルトを押さえつける特殊工具も販売されている。
ベルトのテンショナーも車種により、いろいろな種類がある。ひとつは特殊工具をプーリーの横にひっかけ、偏芯しているプーリーを回してテンションを掛け、その状態でプーリーのナットを締めて固定するもの(VWゴルフ3など)、二つ目はマーチのようにスプリングの力で初期のテンションを掛け、その状態でプーリーを固定するもの、三番目は、テンショナーを締め付けていくと自動的に規定のテンションが掛かるオートテンショナー(VWポロなど)があり、そして四番目にはテンショナーをプレスやバイスで圧縮しておいてピンを差し込んで圧縮した状態で取り付け、べルトを装着してからピンを抜いてテンションをかけるタイプ(スバルなど)である。油圧でテンションをかけるタイプのエンジンもある。
また、テンショナープーリーの他にアイドラープーリーを持つエンジンもあり、これらのエンジンではテンショナープーリーのみならず、アイドラープーリーも交換しなければならない。
ベルトのテンションは一番長いスパンの位置でベルトを横に捻ったときに直角くらいまで捻れる状態が適当な張り(テンション)である。
タイミングベルトの耐久性は、熱に晒された時間と屈曲回数で決まる。ベルトの取り回しの複雑なエンジンは一般的にベルトの寿命が比較的視短いと考えられる。また、オイル漏れや冷却水漏れでベルトがオイルや冷却水に晒された場合は早めの交換が必要である。
一般的にベルトそのものの寿命でベルトが破損することは極めて希であり、ほとんどがテンショナーの劣化の結果としてベルトの歯飛びや破損となる。特に、ウォーターポンプからの水漏れが二次的にテンショナーを劣化させ、その結果ベルトの歯飛びや破損となるケースが多い。
イタリア製のクルマなどはテンショナーの材質が粗悪なプラスチックだったりするので、テンショナーの寿命が短く、そのために3万キロとか4万キロでタイミングベルトの交換が推奨されたりするが、交換の主役はテンショナーであり、ベルトは脇役である。


ドライブ・ベルト(スーパーチャージャー駆動ベルトなど)


マーチR/スーパーターボはスーパーチャージャーをベルトで駆動している。 他にオルターネーターの駆動と、エアコン(またはアイドラープーリー)の駆動のためにベルトがあり、露出しているベルトが3本ある。材質のポリVは熱収縮性のコードを使用しており、万一スリップが発生した場合には発熱によりコードが収縮して張力を回復するようになっている。しかしながら、定期的にベルトの張りと損傷具合をチェックする必要がある。張りの調整は、テンションプーリーの軸を固定しているナットを緩め、テンション調整ボルトを回して張力を調整し、テンションプーリーの軸を固定しているナットを締める。
張りが不足するとスリップしてスーパーチャージャーの効きが悪いこともあるが、張り過ぎるとスーパーチャージャーやオルタネーターなどの補器やテンショナーのベアリングを傷めやすいので、張り過ぎないように適当な強さで張る必要がある。
押して1センチ程度たわむか、ネジって90度曲がる程度が適度な張力である。
ベルトは汎用品であり、純正である必要は無い。3PK770、4PK825、4PK745と指定して汎用品のベルトを購入すればよい。
なお、マーチのベルトテンショナーだが、スーパーチャージャーのベルトを張るテンショナーとエアコンのベルトを張るテンショナーがある。
スーパーチャージャーのアイドラープーリー(テンショナー)はガタが無いが、エアコンのアイドラープーリー(テンショナー)はプーリーの端で1ミリ程度のガタがある。これはボールベアリングの構造的なガタであり、異常ではない。
マーチのエアコンのアイドラープーリー(テンショナー)のボールベアリングの寿命は約15万キロ程度で、エンジンの回転と同期して異音がする場合は、プーリーからリテーナーのピンを外してプラハンマーで軽く叩くか、当て物をして万力で締めてベアリングを抜いて簡単にベアリングの交換ができる。ベアリングの純正部品番号は11924-W3421で788円だが、サイズは外径40ミリ、内径17ミリ、厚さ12ミリで汎用のベアリングの品番6203LLU または6203LLBが使用でき、300円弱で購入できる。


ベルトの種類部品番号長さ仕様価格
オルターネーターAY140-30770770ポリV 3K(3山)
3PK770
1310
アイドラー11920-21B00
またはAY140-40825
825ポリV 4K(4山)
4PK825
1960
スーパーチャージャー11720-21B00745ポリV 4K(4山)
4PK745
1850
タイミング88年12月まで 13028-01B10
または13028-01B25
88年12月以降13028-24B10
または13028-24B25
または13028-24B26
x x 3510


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