旧車の事故と保険にまつわる問題について


旧車を維持して行く上で事故に遭遇することは避けられず、それとともに保険の限界に
苦悩することが多いのが実情である。


旧車の自動車保険と事故における問題点(全損にされてしまうケース)

保険における車両補償の原則は、市価を上限として修理金額が支払われるものであり、
したがって、車両保険に加入する場合も保険の金額は市価が上限になっている。
市価は通常は『オートガイド価格月報』(通称「レッドブック」)を一応の基準として算定
される。
実際は各保険会社が自動車保険車両標準価格表というものを発行しており、これに基づいて
車両保険の金額(上限)が決定されている。この表には乗用車の場合、過去7年の車両価格しか
金額が記載されていない。
「この表に記載されていない車両については保険会社に問いあわせてください」と記載されて
いるが、問い合わせても7年以上経過した車両は法定償却率が終わっているとして車両価格の
1割程度の評価額としてしか車両保険に加入できない。
つまり、多くの旧車はおそらく20万が車両保険の加入の上限となる。
しかしながら車両保険20万のための掛け金は割引率によるがおおよそ年間4〜5万円であり、
しかも免責金額が5万だったりする。
つまり車両保険は大きな事故の場合にしか役立たない。しかしながら全損したような大きな
事故の場合、修理費は車両保険の上限20万以内しか支払われない。
つまり、ちょっとした事故をしただけで全損扱いとして20万の支払いがなされて終わりとなる。
保険料とのコスト・ベネフィットという観点からは旧車の場合に車両保険に加入するメリットは
無いと思われる。
エース保険だけがクラシックカー保険と称して、一定の条件(1975年以前の車両、年間走行距離が
少ないこと)を充たすと安価な保険を準備している。
この保険に加入できない車令7年から30年の旧車に関しては車両保険は非常に不利である。

もうひとつの問題は被害事故の場合の車両の修理費の問題である。
相手側に100%の過失のある事故でこちらが無過失の事故で、車両の損害を受けた場合も前述と
同様の考え方で補償額が算定される。
つまり、修理費の見積額が50万円の被害を受けたとしても、補償の上限は被害車両の市価が
上限となる。車令が10年も経過していると車両の市価は無いに等しいと見なされて新車価格の
10%の20万円しか補償されない。
被害をうける前の状態に復旧するための修理費さえ支払われないというのが現状である。
これは損害を償うのに、修理するより、市場で同等の車両を買ってきた方が安い、という論理に
基づく。
また、価値が20万しかない車を50万もかけて新しい部品を組み付けて修理すると価値が上がって
しまう、という考え方もしている。
価値が20万しかない車にいくら新品のパーツを取り付けても市場価格は上がらないにもかかわらず
過去の判例では修理でパーツが新しくなるのだから価値が上がるとしている。
裁判官は車のことを全く判っていない。
市場相場相当の費用を加害者に弁償させて、被害者は市場で同等の車両を補償金で購入したら良い、
というのが過去の裁判の結果(判例)である。
しかしながら旧車の場合そんなに簡単に同じような車両が入手できない。
仮に同等の車両が20万で見つかったとしても、その買い換えに必要な費用、つまり、車庫証明取得費用や
登録費用などは補償されない。保険会社の論理(そして過去の裁判の判例)は「どっちみち遅かれ早かれ
車は買い換えるのでしょう」、「そのときには、いずれにしても購入費用は必要になるのじゃないですか」
というものである。
ここには車を修理しながら大切に長期にわたり乗っていくという思想は全く無い。
車は完全に消耗品扱いである。
被害者としては、その事故から何ら得をしようとしているのではなく、事故前の状態に戻すための
修理を望んでいるのであるが、それが認められなくて、無理矢理諸経費を被害者負担で買い換えを
強制されることになる。
同等の車両が見つかれば良いが、旧車の愛好家の場合は、珍しいモデルに乗っていたり、
すばらしく程度の良い車に乗っていたりするケースがあるが、そのような状況は全く考慮
されずに一律の扱いである。
加害者の加入している保険会社と交渉しても、保険会社は判例をタテにして非常に強気である。
修理費の見積額が50万円と主張しても保険会社は車両の時価額20万しか支払わないという。
裁判官も車は消耗品だと思っているから、判例は被害者に不利なものが多い。
加害者と交渉しても、加害者は無制限の対物補償保険に加入しているので、上限無しに保険で補償
される、つまり修理費全額50万が支払われると信じているから、被害者が丁寧に説明しても、
事故をネタに金品をゆすろうとしていると警戒する。
強引に交渉すると、脅迫されたといって逆に加害者が被害者を訴えてくるということもあり得るし、
実際加害者の加入している保険会社が加害者にそのように助言している例がある。
こちらが弁護士をたてて訴訟を起こす手もあるが、前述のように判例は車を消耗品として捉えて
いるものが多く、旧車は全く価値が認められていない。仮に裁判に勝っても得られる金額は
多くは無く、その10〜20%程度の弁護士費用では弁護士も熱心に訴訟をやってくれない。

今回被害事故を受けていろいろと学び、わずかながら、記憶にとどめておいた方が良いことを
以下にまとめる。
@法律は被害者の被害を償ってくれるようには出来ていないし、物事の道理や常識から逸脱した
規定がいっぱいあって、法律による結論は納得や満足がいかないことばかりである。裁判官など
関係者のほとんどはクルマというものに知識と理解が無く、過去の判例は被害者に不利なもの
ばかりであり、今後も有利な判決は得られ難い。
A旧車について車両保険に加入する場合は、車両価格をなるべく高く主張できるような資料を
準備する。つまり、購入したときのレシート、最近レストアしたり全塗装をしたような場合も
そのレシート、高価なパーツを装着したとき、たとえばレカロのシートの装着、カーナビの
装着、高価なホイールの装着など写真を準備する。
B車に詳しい優良な保険代理店を選ぶこと。
保険契約が多く、事故率の少ない顧客をたくさん持っている代理店は保険会社に強い発言力を持つ
ので、車両保険に加入するときにその上限を高くするように交渉してくれる。
C相手に100%の過失のある事故で被害を受けたら加害者から事故現場で即座に念書を書いて
もらい、修理費用は加害者が全額負担すると明記させる。
D事故現場を離れると家族や友人など周囲が入れ知恵をするので、事故の現場でメモでよいから
念書を書かせるのが良い。
E保険会社が支払うのは、車両の修理金額(車両の市価を上回るときは車両の市価を上限)、
レッカー車の費用、レンタカーの費用、車両に搭載してある荷物の損害、全損の場合は、
前回の車検取得時の整備費用の残期間に応じた金額などが支払われるので、それらについて
うまく交渉して車両の時価+アルファとして交渉した方が良い。そのために市価を証明する資料を
準備する必要がある。中古車の販売雑誌、自動車雑誌の広告などからなるべく高い市価を裏付ける
ようなデータを作り、保険会社と交渉するとよい。保険会社では管理職が権限を持っているので
ヒラ社員と交渉するのではなく、保険会社に出向き、直接上司と交渉した方が良い。
保険会社は事故毎に予算の範囲内で交渉してくるので、レンタカーも早めに返却した方が
プラス・アルファに結びつきやすい。
慰謝料とか、通信費用とか、タクシー代などの名目で請求しても決して支払われないので
あくまでも修理費用など前述の名目の範囲内で高い金額を獲得するように交渉しなければ
ならない。なお、慰謝料については20万程度を得たという事例があるがこれは極めて稀なケースである。
F交渉を行った結果、保険会社から提示された補償金額が修理費用を下回るときは、示談する前に
加害者と直接話をして、修理して元の状態に戻すためには、加害者が修理費用を負担する道義的な
責任があることを説明し、保険で修理費用の全額が出ないならば、修理費用の不足分を加害者が
負担するという約束を取り付けてから示談する。
加害者が保険から支払われる補償金額と修理費用の差額を負担しないというなら示談しないと主張する。
これは示談書の用紙には必ず、「示談金以外の金品を要求しないこと」と記載されているからで、
示談するということはこれらの請求権を放棄することになるからである。
保険による補償金額と修理費用の差額を加害者に負担させようと交渉するときには当然ながら被害者は
車を修理して今後とも乗るという意思のもとに交渉しなければならない。
この機会に買い替えを予定しているなら、市価相当額の補償金額で合意して示談するべきである。
G穏やかに話をしないと、加害者が事故の被害者に脅迫されたと主張し、非常に妙な事態であるが加害者が
被害者を訴える恐れがあるので注意すること。


旧車の任意保険による修理の問題(車両保険と対物賠償保険)

自動車の任意加入保険を契約していればイザというときに何とかしてくれるだろう、というのが多くの
ユーザーの理解であるが、実際は色々な問題が取り巻いておりそんなに簡単に満足できる結果が
得られない現状を知っておくべきである。

100対ゼロでこちらに非がないという状況は、こちらが停止している場合か、高速道路で対向車が
こちらの車線に飛び込んできたときくらいで、動いていればこちらに前方注意義務違反が課せられ、
過失があるものと看做される。前進していなくても後退していれば後方注意義務違反になる。
ということで絶対に事故が避けられないような状況でも人やモノに当たれば必ず何がしかの
責任が問われる。
人に傷害を与えた場合は自動車賠償責任保険(強制保険)任意の対人保険が対処してくれることに
なっている。同乗者の怪我は搭乗者傷害保険、自分の怪我は人身傷害がカバーするのだと思う。
幸い人身事故を起こしたことが無いのでこれらについてはこの程度しかわからない。

問題は対物賠償保険と車両保険である。
契約を募るときは、「加入していれば安心です」とか、加入すれば全部カバーしてくれると
誤解しそうな言葉で誘っている。
これは保険会社もそうであるし、代理店など無責任にもっと気楽なセールスポイントで煽る。
ところが保険金を支払う段階になると保険会社はビジネスだからなるべく少ない支出で
おさめようとして契約のときには説明のなかった内規とか社会通念だとかを持ち出してくる。
代理店はそんな誘い方をしなかったと逃げ腰になる。
契約者は保険がモノの修復を完璧に上手くやってくれるものと期待している。
板金塗装業者はビジネスチャンスとして巧くやってこれを機会に儲けようとする。

車両保険に加入していれば、免責金額ゼロの場合、1銭も出さないで修理が出来るかというと、
そのようなラッキーなケースもあるが、自分のポケットから支出せねばならないケースもあることを
知っておくべきである。これはユーザー側は完全に保険でカバーしてくれるものと思っているが、
実際に保険会社側の考え方が、支払いは損害の「一部」補填であるからである。
たとえば、フロントの左側を衝突させてヘッドライトが壊れた事故だと仮定しよう。
修理のために左側のヘッドライトと同一の品を入手しようとしたが、すでに欠品になっていた。
このような場合は、車両保険の取り扱い上ではどのような方法を採用するのかを保険会社
ならびに保険の代理店に質問したところ、「左側が破損したのであるから、左側のライトのみを
交換して装着する」というものである。
問題は右側と同じものが入手できないのであるが、保険の上では同一部品の入手が不可能であることは
考慮外で、破損した部分に限り修理する、という考え方に立つので、左右のバランスなどは
保険の考慮外らしい。
車両保険は、車両を壊したときの費用を全額保険が持つというより、個人の支出が最小で
済むように保険からお金を援助しますよ、というような感じで保障そのものが限定的である。
補償基準も一般社会通念というが、非常にあいまいな表現であり、どうやら社会通念という言葉の
意味の理解について保険会社とユーザー側には大きな隔たりがあるようである。
もっとも実際の場においては、保険会社の担当者の腹ひとつでやや甘く適用して修理したり、
厳しく適用して最小限の費用しか負担しない保険会社もありそうだ。

保安基準ではヘッドライトは「そのすべてが同一であること」と記載され、左右が同一でなければ
ならないと明確に定められており、車検でもライトの銘柄が左右違うと不合格になっている。
ということで車両保険を厳格に適用した修復では、保安基準に合致しない状態になってしまうことがある。
外観的にも左右のヘッドライトが違っていては具合が悪い。
この場合は、交換した左のライトとマッチした右ライトをユーザーがユーザーの費用で購入して、
壊れていない右側のライトと交換して、保安基準に合うよう両側を揃えた状態にしなさい、
というのが保険の考え方らしい。

対物賠償保険の場合は、民法上の現状復帰のみが必要であるが、ヘッドライトが左右違っては
被害者が納得するはずもなく示談交渉がまとまらないのは明らかなので、この場合は例外的に
両側ともヘッドライトを交換することもあるようである。
この場合、保険会社によっては壊れていない右側のヘッドライトの費用は加害者である対物賠償保険の
加入者に請求されることもありそうだ。被害事故を受けてもなかなか満足のいく補償は得られない。

自動車保険の約款には「修理費とは被保険自動車を事故発生直前の状態に復旧するために必要な修理費」と
記載されている。
一般常識として、復旧という文言は事故前と外観的に同じ状態だと思うが、保険会社の常識は、
われわれとは異なり、「事故発生直前の状態」というのは「事故発生直前に近い状態」であって
「事故発生直前と同じ状態」では無いらしい。
ま、これも交渉次第で多少は違うこともあろうが、保険会社の建前はこのようなものである。
保険会社はビジネスだから出費を抑えたいし、悪徳契約者や悪徳な修理業者から保険を食い物に
されたくないので厳しい基準で対処しようとしているのが実情だ。

破損が軽微であると保険会社の査定員(アジャスター)が事故車両を調べに来ないで画像で判断することがある。
保険を食い物にする悪徳修理業者はそれを良いことにして破損部分が大であるように見せかけ、
高い見積もりを出して高額の保険金をせしめることである。
全損の場合は、特に外車の場合は何かと難癖をつけたり、保険会社のアジャスターを騙すか、
グルになってフレームが歪んでいるとかいって全損扱いにさせ、被害者は全損扱いの涙金の保険金を
受け取り、修理業者が「全損になった車両を安い費用で処分してあげましょう」なんていいながら実際は、
事故車を安く修理をして高く転売する、というケースがある。
保険会社もユーザーもこれらのハゲタカ業者のカモであり、保険料の値上げとなって跳ね返ってくる
ので、結果的にユーザーが一番損をする。

保険適用の実態はこのように簡単ではなく、しかも加入者(ユーザー) の期待通りにはなかなか行かない。
特に社外品のスポイラーやランプ、グリルなどを装着している場合、同じ部品が入手できるものは良いが、
そうでない場合は車両保険であれ、対物賠償であれ補償が得られない。
万一の場合に補償が得られない可能性があるということを承知の上でオプショナル・パーツを装着する必要がある。
一番気の毒なケースは旧車のケースだ、純正のヘッド・ライトであってもパーツが入手できないということがある。
全損にされてしまうのか、それとも左右違うヘッド・ライトになってしまうのだろうか。
旧車の場合、中程度以上の破損はもっと悲惨だ。車の価値自体が無いとみなされ、ちょっとした事故でも
全損扱いにされてしまい、20万程度の金額の支払いでお終いとなってしまう。

いずれにしてもユーザーが泣き寝入りしなければならないのが現状のようである。
被害事故で、相手が対物超過修理費用特約に加入していれば、通常修理金額は時価額が限度になるところ、
時価額+50万円までは過失割合に応じて補償してくれるので相手がこの保険に加入していることを願うしかない。
自分の車両に車両超過修理費用特約というのがあるとさらに助かるが残念ながらこのような特約はまだ出来ていない。
しかしながらちょっとした事故だと修理総額は100万を超えるので、旧車の場合は保険を完璧にかけていても
修理費全額が出ないケースが多く、旧車に乗り続ける上でもっとも頭の痛い問題である。
相手がある事故の場合には相手と粘り強く交渉して保険でカバーされない部分は相手が負担するように
説得するしかないようだ。


旧車にも車両保険が掛けられる

旧車の車両保険については、これまで、エース保険だけがクラシックカー保険と称して、保険を契約してくれていた。
しかしながらエース保険の場合は一定の条件(1975年以前の車両、年間走行距離が少ないこと)を充たす必要があり、
この条件に合わない旧車の場合は車両保険加入の方法がなかった。
横浜の保険代理店がクラシックカーに車両保険がつけられるような保険を取り扱っている。
このクラシックカーの車両保険は市場価格(実際に流通している価格)を補償金額として設定するもので、
下記のような最近の加入例がある。

2009年3月1日より3月10日までの10日間で新たに受け付けた実例。
フェラ−リ308        700万円   1977年式
ロータスエラン        400万円   1967年式
ロータスエラン        350万円   1968年式
スカイラインKPGC110   400万円  1973年式
ホンダビート         50万円   1991年式
ロータスエスプリ      350万円   1987年式
ブルーバード510      100万円   1970年式
ランチアフルビア      400万円   1968年式

保険業界が使用している車価表に記載のない車両についても車両保険を受け付けてくれる。
保険の加入については市価を確認する資料が必要になると思うが、レストアした貴重な旧車などの保険については
下記の代理店に相談することをお勧めする。
旧車王国はこの保険代理店と20年ほどの付き合いがあるが、信頼できる代理店であり、しかもクラシックカーの知識と
理解がある代理店である。
エムシースクエア有限会社 長岡勝
e-mail:mcs@r03.itscom.net
  phone :045-904-4331 fax :045-330-5632
softbank:090-1731-4331
225-0026 横浜市青葉区もみの木台10-12


●コメントなどはこちらへメールでお寄せ下さい。
スパムメール防止のために全角文字でメールアドレスを記載してありますので、半角で入力しなおしてくださるようお願いします。

トップページへ戻る